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チューリッヒ発寝台列車④スイス

5月12日

重低音の後に高音のブレーキで、深夜に突如停車する。
私はふと目を覚まして、カーテンの隙間から名も知れない駅の静寂を眺める。何ともいえぬ旅情ある空間と時間を感じるのだ。

バーゼルから乗ってきた親子は〝ハロー〟と言って、下段の両サイドのベッドを整え始めた。 彼らが一段落すると、私は鍵と電気の説明をし 少し話をしたものの共通の話題もなさそうなので、サッカーか何かの話をしたと思う。

大学生の息子はスマホばかりだったが、英語が話せる母親の方は、真上に寝ているアジア女の裾を引っ張り〝ねぇねぇ。〟と話しかけてくる。
興味の対象は、他でもない廊下でビールを飲んでいるおじさんのことだ。

〝マダムバーゼルは、廊下で車掌と黒ずくめの男がもめているのを見たのですな。それもこの部屋の前で。〟〝ねえねえ。アイツキップ持ってないんだって。〟
横のベッドはキチンとシーツがかけられ、その上にジャケットとキップカバーが乗せられている。
マダムバーゼルの証言はまだ続く。〝ねぇねぇ。アイツキップ無くしたとか言って、お金支払いたくないってさ。〟〝オーラㇻ。ますます怪しいですぞ。〟

私は名探偵ポアロでもないし、どちらかといえば私の玉虫色の脳細胞は〝もぉ車掌が何とかするやろ。寝たいわ。〟
私は半開きのドアを閉めた。

この電車は国際電車なので 乗客リストで把握できているだろうし、国や時間帯に差こそあれ 欧州鉄道の車掌はきちんとしているので、任せるに限る。
途中乗込んできた鉄道警察とともに大男が列車を降りると、
〝ねぇ。明日5時起きだから寝るわ。おやすみなさい。〟こうしてマダムの囁き証言は終わった。

一体何時なのかわからないし、その後も夜中乗ってきた上段の青年に鍵と電気の場所を教えたり、頻繁に出入りするバーゼル青年が戻ってきて扉をノックしても マダムバーゼルは一度も起きてこないので、代わりに中段の私がいちいち開錠しなければならなかったり、一晩熟睡できる状態ではなかった。

カーテンを開けると 射光がマダムバーゼルに真面にあたり起こしてしまうので いや起こさない方がいいので、私は旅情すら感じられない。

(続く)


sleeper2.jpg
車窓

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